「ヴィトラハウス」ロフト

サビーネ・マルセリスとの対話

オランダ・ロッテルダムを拠点に国際的に活躍するデザイナー、サビーネ・マルセリス。新鮮なフォルムと活気あふれる色使いで素材を際立たせるデザインが、世界的に高く評価されています。アートとデザインをかけあわせた独自の表現で知られるマルセリスは、2022年に「ヴィトラ デザイン ミュージアム」 との協働による企画展として 「ヴィトラ シャウデポ」 内の展示『Colour Rush ! 』のキュレーターを務め、そこに所蔵されている膨大なコレクションをカラー別に再構成しました。そして毎年開催されるデザインの祭典、アートバーゼルの開催に合わせて、「ヴィトラ キャンパス」内にある「ヴィトラハウス」の ロフトのインスタレーションを手掛けます。ヴィトラ製品に、彼女と親交の深いデザイナーやアーティストの作品を交えながら、彼女ならではのカラースキームを用いて色調ごとに再構成された展示空間は、訪れる人々の暮らしに新たな視点をもたらしてくれます。本インスタレーションの背景にあるコンセプトや、スピンオフ企画として発売するヴァーナー・パントンによる名作のスペシャルエディションについてインタビューをおこないました。
「ヴィトラハウス」の ロフトのインスタレーションを制作するにあたり、どのようなアプローチで取り組んでいったのでしょうか。

”もし私がここに住むとしたら、どのようにデザインするだろう?” というアプローチから始めました。そのデザインの背景にある考え方は、私たち自身が家族で住む家をどのように構成していくか、ということに似ています。広いオープンスペースを、機能ごとのゾーンで分けたことが特徴です。私のデザインと、私がよく知るデザイナーやアーティストといったコラボレーターの作品を織り交ぜながらも、全体としてまとまりのある空間に構成したいと思いました。ヴィトラの製品選びも、このようなコンセプトのもとおこないました。ヴィトラのオフィス向けシェルフ「カド」システム を、棚としてだけでなくベッドとしてカスタマイズして使用したところにも注目してもらいたいですね。ヴィトラ製品の使い方に新たな風を吹き込んだのではないでしょうか。
空間では、どのようにカラーを使ったのでしょうか?

カラーは直感的に選んだものです。カラーを使ってエリアを分け、各エリアにはそれぞれベースとなるカラーを配色しました。ラウンジはキャメル、キッチンは褪せたレッド、リビングはグリーン、ワークスペースは明るいイエローといったように、住まいの役割を明確に色分けしました。このカラースキームは、ミラーや樹脂の作品など、これまでの自身のプロジェクトでよく使ってきたカラーをミックスしたものです。私たちのデザインスタジオを象徴する代表的なカラーを選び、そこに濃淡やニュアンスを加えて全体を引き締め、温かみのある雰囲気に仕上げました。さらにコントラストをつけるために、グリーンやピンクといったクールなカラーも使っていますが、全体的には、家の温かさを大切にしたカラースキームを中心に配しています。
環境選びにおいて、カラーは大切な要素であると思いますか?

カラーに関する議論や話題というと、「2024年のカラー」というように、その年のトレンドが中心になることもしばしばです。しかしトレンドを追うことがよいこととは限りません。「ヴィトラハウス」のロフトで使われているカラーは、私が個人的に好きな色を選びました。
私はこの色が好きですし、飽きることはありません。
このような考え方が、家を創る人にとって大切だと思います。
サビーネ・マルセリス
ジャスパー・モリソン「ソフト モジュラー ソファ」を使った、居心地のよいエリアについて教えて下さい。

私にとってリビングルームはショールームのようではなく、アットホームでくつろげるラウンジのようであってほしいと思いました。壁には映画を投影して、来場者に少しくつろいでもらえるようにしたいと思い、一段下げてやや低い空間を演出しました。モジュラー式のソファシステムは、L字型にセッティングするのが一般的ですが、私たちはすべてのパーツを組み合わせて、包み込むようなセッティングにしました。お気に入りのラウンジ的なスペースを持つことはとても重要だと思います。我が家にもラウンジにあたる一画があり、そこが暮らしの中心です。ぜひあなたもこのラウンジに飛び込んでみてください!
このプロジェクトには、さまざまなアーティストやデザイナー仲間も参加していますね。

マリア・プラッツ、ジョニー・メイ・ハウザー、最近アムステルダムのFoam写真美術館で一緒に仕事をしたカーライン・ジェイコブスといったアーティストたちが、プロジェクトに新たな表情をもたらす作品を作ってくれました。私の親友の一人で、ベルリンを拠点に活動するアーティスト、イーサン・モーシェドも参加しています。彼はマーティン・ローズやディーゼルなどファッションブランドのパターンデザインを手掛けていて、コラージュの手法でこれまでにないクールなパターンを生み出しています。私は彼がデザインした大きなカーテンを持っているのですが、今回は「ヴィトラハウス 」のロフトのためのベッドシーツのデザインを依頼しました。このベッドシーツは「ヴィトラハウス」のショップで、限定販売されます。このように、私が尊敬する素晴らしいアーティストたちによる、家具を引き立てるためのカスタマイズやアートが、このプロジェクトに深みを加えてくれました。私の自宅と「ヴィトラハウス」のロフトにある作品の一つひとつに、歴史や思い出、大切な意味が込められています。
A limited edition of the Panton Chair Classic and the Visiona Stool by Danish designer Verner Panton has also been created. What is so special about these two classics?

Vitra has launched a limited edition of the Panton Chair Classic in a super high-gloss finish in exactly the same seven hues we used in the VitraHaus Loft. I’m excited about that. It's such an iconic chair and colour plays a crucial role in how you perceive it. Also, the low cylindrical Visiona Stool, a pouf designed by Verner Panton, has been available in seven limited-edition hues and in different covers: The selection ranges from furry to leather and everything in between, giving each piece a very distinct personality. Both products were offered for sale as part of the Art Basel week at VitraHaus and via vitra.com, limited to 50 pieces per colour.
今回のプロジェクトでは、ヴィトラの膨大な製品コレクションをどのように活用したのでしょうか?

さまざまな時代、トレンド、スタイルを網羅したヴィトラの素晴らしい製品を扱うにあたり、空間が賑やかになりすぎたり、乱雑になりすぎないようにということを意識しました。エリアごとに同系色のカラーを使ってテーマ分けしたことで、落ち着いた空間にまとめることができました。チームでカタログを片っ端からめくり、グループ企業であるアルテックの製品を混ぜたり、古いものや新しいもの、スタンダードなものや意外性のあるものなど、相反すると思われるものを含むあらゆる要素をうまくミックスし組み合わせることにこだわりました。

Publishing date: 27.05.2024
Images: © Vitra, Clemens Polocze