1000 m2 の家具

フローリアン・ストローへのインタビュー

ドイツのヴァイル・アム・ラインに位置する 「ヴィトラ キャンパス」 内の「ファクトリー ビルディング」のプロダクションホール が、ドイツのレラハに校舎をもつバーデン・ヴュルテンベルク州協同州立大学(DHBW)と新立された建築学課のために改装されました。「ファクトリー ビルディング」は、1994年にアルヴァロ・シザによりデザインされ、現在は建築遺産として登録されている建造物です。記録的な速さで完了した今回の改装について、バーゼルを拠点とする建築事務所 Studio ne のオーナーであり、デザインコンサルタントも務めるフローリアン・ストローにインタビューしました。

フロリアン、2023 年春、12,000 平方メートルにも及ぶオープンな空間を特徴とするアルヴァロ・シザの建物の一部を、2023 年 10 月の大学の学期開始に合わせて学習スペースに変更したいという依頼を聞いたとき、どのように思いましたか ?


最初に聞いた時は鳥肌が立ちましたよ。まさか間違いのはずはないと思いましたが、リノベーション期間が 6 か月弱しかないことには本当に驚きました。しかし、もちろん、このようなプロジェクトを逃すわけにはいきません。以前ヘルツォーク&ド・ムーロンの事務所で働いていた時、私が初めて担当したプロジェクトは、アルヴァロ・シザの建物からわずか 100 メートルほどの距離にある「ヴィトラ シャウデポ」でした。建築家として独立ぢ、再び「ヴィトラ キャンパス」の建築に関わることができるのは、光栄な出来事でした。そして、これから建築家になるであろう未来の若者たちのためでもあると思うと、このプロジェクトはより一層エキサイティングに思えました。

既存の建造物を改造することは許可されたのでしょうか?プリツカー賞受賞者によって設計されたこの建築は、今は建築遺産として指定建造物になっています。その状況は、あなたのリノベーション計画にどの程度影響を与えましたか?

エントランスのファサードが多少改造されても、建築物自体のデザインに大きな影響を与えることはありません。12,000平方メートルにおよぶ建築の内部のホール部分に、1,000平方メートルの小さな木造建築を建てることにしました。まるで、子宮に新たな生命を孕むようであり、建築というよりは家具のようでもある物体です。この小さな建築は構造的に独立しており、アルヴァロ・シザの外壁に接触する部分はあれど、接着や接続はされていません。アルヴァロ・シザの建築に敬意を払い、その内部に値する質の高いインスタレーションを実現することが重要であった一方で、教育と学習のためのより良い環境を作り出すことも重要でした。内部に創設される小さな建築とインテリアの質が、勉強や営み、文化にプラスの影響を与えるようにしたいと思いました。だからこそ、私たちは外構とインテリアに独自の関係性を構築しました。まるでジャズのように、リズムはあらかじめ決まっていますが、メロディーは自由に即興で作ることができます。建築的な用語に言い換えると、ユーザーがその空間をどのように占有し、使用し、「遊び」たいかを自由に意志決定できることを意味します。オープンでありながらもプライベートな環境が、アイデアのひらめきを促し、同時に知識の共有を促進します。
プロジェクトにおいて最大の挑戦は何でしたか?そして、どうやって解決しましたか?

最大の挑戦は、竣工完了日と入居日でした。6か月という計画はあまりに無謀で野心的でした。通常の建築プロセスでは到底不可能なことです。しかし幸運なことに、建築家であり現場監督、かつヴィトラグループや第三者への不動産賃貸を行う不動産会社であるロガドの代表であるクリスチャン・ゲルマドニクが私のそばにいてくれました。彼は、これまでの経験をもとに、ロガドとヴィトラと協力関係にある地元の起業家たちとの交友関係をフルに活用し、早い段階から彼らをプロジェクトに参加させました。そのおかげで、決定を下す際や悩んだ時に、何回も会議を開く手間も時間も必要がありませんでした。内部の建築の木木製の構造部は、早く組み立てられるよう、可能な限りモジュール式で設計されました。パイプ、ケーブル、ネジなどを隠さない構造もまた、この場所のインダストリアルな雰囲気にマッチしています。結果と過程のすべてが、シンプルでインダストリアルでミニマリズムに基いていました。

結果についてどう思いますか?あなたは満足していますか?そして、それよりもさらに重要なのは、生徒たちは自分たちの環境に満足していますか?

学生たちからは非常に肯定的な反応が寄せられています。彼らはオープンスペース、建築の「すきま」、そして自分のタイミングで自由にランチをとれるカフェテリアが大好きです。私の方は?計画と施工にもっと時間があれば、確かに、さらに別の方法を思いついたでしょうが、これ以上良くなることはなかったでしょう。必需品以外のものを置く余裕も余地もなかったことが、結果として、誠実で実用的な空間ソリューションになりました。
ヴィトラは企業として持続可能性を非常に重要視しています。この姿勢は DHBW プロジェクトにどのように現れていますか?

建築材料として、持続可能性の高い自然素材である木材を使用しました。そもそも、新しい建築を建てるのではなく、既存の建築を利用し、改造するということが、もっともサステイナブルです。ロンドンの「テート モダン」が、発電所から公共的な美術館にリノベーションしたという事例を個人的には参考にしました。あらゆる変化に対応できる建築こそが、ロングライフでありサステイナブルな建築と言えるのではないでしょうか?

ロングライフな建築という視点は、非常に興味深いトピックです。あらゆる建築物が存在する中で、なぜある一部の建築だけが生き残り長持ちするのでしょうか?将来的に電気などエネルギー効率の点で多少問題があったとしても、人々は100年住み続けることができる家を求めます。いくら最新の建築であっても、これからの変化に対応することが難しければ当然取り壊されてしまいますが、中の空間を変えることができれば、200年先でも機能し続けることができます。まさか、アルヴァロ・シザのホールに学校ができると、当時は誰が想像したでしょうか。それを可能にしたのは建築自体の質です。建築の質が高ければ高いほど、内部の再開発が容易になります。

しかし、私にとってこのプロジェクトにおける最大の持続可能な側面は、ここ「ヴィトラ キャンパス」という建築の聖地で、バーデン・ヴュルテンベルク州協同州立大学の建築の授業が行われることで、世代を超えた建築家が優れた建築に触れ、その影響を受けるということです。持続可能な場所で持続可能な建築とその方法を学ぶこと、それこそが持続可能性=サステイナビリテイだと感じます。

フローリアン・ストロー 経歴

スイスのバーゼルに生まれたフローリアン・ストローは、チューリッヒ工科大学、ストックホルム王立研究所、アメリカのイェール大学で建築を学びました。卒業後、彼はバーゼルの建築事務所ヘルツォーク&ド・ムーロンで7年間プロジェクトマネージャーを務め、その後、Studio Bananaのバーゼル事務所設立に貢献し、2022年に自身の建築事務所Studio neを設立しました。ハノーバー音楽大学に交換留学をしたこともあるフローリアン・ストローの建築作品には、音楽的なリズム、色、質感、フォルムに溢れています。

Publication date: 14.5.2024
Author: Christoph von Arb
Images: © Vitra

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